抵当権
- 抵当権とは、処分の根拠となる権利
担保物権に共通する性質
- 付従性: 非担保債権の消滅と同時に抵当権も消滅する
- 将来発生する債権のために抵当権を設定することも可能
- 随伴性: 非担保債権の所有者が移転すれば、抵当権も移転する
- 不可分性: 非担保債権を弁済したからといって、抵当権が部分的に消滅することはない
- 借金が半分になっても抵当権は半分にならない
- 物上代位性: 抵当不動産が滅失した場合、代わりに抵当権設定者が受けるべき金銭等について行使できる
- 抵当不動産が火災で滅失しても、債権者は火災保険金から優先的に回収可能
抵当権の設定と債権の回収
優先弁済
- 抵当権者は、債務が弁済されないときに、その土地や建物を競売にかけて、落札代金から優先して債権の回収を受けることができる (民法369条1項)
- これを抵当権の実行と呼ぶ
- 抵当権者は他の一般債権者よりも優先して債権を回収できる
- 一般債権者は、抵当権者の余りを、債権額に応じて分配される
対抗要件
- 登記が対抗要件となる (民法177条)
- 第三者に加えて、賃借権を持つ賃借人であっても、抵当権には対抗できない
抵当権の順位
- 抵当権は、単一の不動産に対して、順位を設けて複数設定することができる
- 順位の高い者から順に優先的に債権回収ができる
- 順位は登記することで効力を発する (民法374条2項)
- 各抵当権者の合意によって順位の変更も可能 (民法374条1項)
抵当権の効力
目的物の範囲
- 抵当権は、抵当地上の建物を除き、対象不動産に付加して一体となっている物に及ぶ (民法370条本文)
- 抵当権の効力は少なくとも以下4種のものに及ぶ
- 付加一体物: 建物に付加して一体となった物 (玄関の扉など) (民法370条)
- 従物: 物の所有者が自己の所有する他の物を付属させた物(エアコンなど) (民法87条2項)
- 従たる権利: 借地上の建物の場合、その敷地の利用権など (民法87条2項類推適用)
- 果実: 被担保債権に不履行があった後に生じた建物の賃料など (民法371条)
- 建物内のテレビや骨董品など、付加一体物とも従物とも評価できない物には、抵当権は及ばない
物上代位
- 抵当権者は、抵当権が設定された建物が火災で滅失した場合、抵当権設定者の火災保険金請求権を差し押さえて優先回収に当てることができる (民法372条 / 民法304条)
- ただし、回収するためには、保険会社から抵当権設定者に金銭が支払われる前に、差し押さえをしなければならない
- 抵当権者は、抵当権が設定された建物の賃料債権を物上代位することができる
- 又貸しの場合の転貸料債権は、抵当権設定者に支払われるものではないため、物上代位できない
- 賃料債権が抵当権設定者から第三者に譲渡されていた場合でも、金銭が支払われる前に差し押さえれば、抵当権者は賃料債権を物上代位できる
- 買戻特約付売買の買主が抵当権設定者の場合、抵当権者は物上代位権の行使として、抵当権設定者が取得した買戻代金債権を差し押さえることができる
- 抵当権設定者が第三者に対して持つ債権は、第三者との間で相殺したとしても、抵当権者の物上代位権に対抗できない
- 物上代位による差し押さえと、抵当権設定者の他の債権者の差し押さえとが競合した場合、抵当権設定登記と、差し押さえ命令の送達の先後で優劣が決定する
被担保債権の範囲
- 抵当権者は、利息その他の定期金を請求する権利を有するときは、その満期となった最後の2年分についてのみ、その抵当権を行使することができる (民法375条1項本文)
- 利息が8年分溜まっていたとしても、抵当権で優先的に回収できるのは最後の2年分のみ
抵当権の侵害
- 抵当不動産が不法占拠されている場合、抵当権者は、抵当権に基づく妨害排除請求権を行使できる
- 抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使を困難とするような場合のみ
共同抵当
- 同一の債権の担保として数個の不動産に対して抵当権を設定することができる
- 土地と建物両方に抵当権を設定する場合など
物上保証人
- 抵当権設定者が債務者自身でない場合、その設定者を物上保証人と呼ぶ
- 物上保証人が債務を弁済した時や、抵当権が実行されて物上保証人が所有権を失ったときは、債務者に対して求償できる (民法372条 / 民法351条)
- 物上保証人は、あらかじめ債務者に対して求償することはできない
- 物上保証人は、抵当権実行に際して、債務者の財産から先に執行するよう抗弁することはできない
抵当不動産の第三取得者
第三取得者
- 抵当権が設定されている土地を購入した購入者を、抵当不動産の第三取得者と呼ぶ
- 第三取得者が抵当権を消滅させるには、代価弁済や抵当権消滅請求といった方法がある
- 抵当不動産の第三取得者も、当該不動産の競売において買受人となることができる (民法390条)
代価弁済
- 第三取得者が抵当権者の請求に応じ、抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は消滅する (民法378条)
抵当権消滅請求
- 第三取得者は、抵当権者に対し、抵当権消滅請求を行い、相手が承諾した上で一定の代価を支払えば、抵当権を消滅させることができる (民法379条 / 民法386条)
- 主たる債務者や保証人は、抵当権消滅請求をすることができない
- 抵当権消滅請求は、抵当権実行としての競売による差押の効力発生前に請求する必要がある (民法382条)
抵当権と時効
- 債権者及び抵当権設定者でないものの場合、被担保債権と同時でなくても、抵当権だけを時効によって消滅させることができる (民法396条)
- 抵当不動産が債務者又は抵当権設定者以外の者によって時効取得された場合、原始取得により抵当権は消滅する (民法397条)
法定地上権
法定地上権の成立要件
- 土地に対して抵当権が実行され、建物と土地の所有者が別人となる場合、以下の条件を全て満たせば、建物の所有者に対して法定地上権が発生する (民法388条)
- 抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること
- 抵当権設定当時、土地と建物は同一人が所有していること
- 登記名義が別でも実体的に同一人物の所有であればOK
- 抵当権が設定されること
- 競売により土地建物の所有者が別々になること
更地の場合の法定地上権の成否
- 抵当権設定当時、更地だった場合は、法定地上権は成立しない
- その後、建物が建てられた後に二番抵当権が設定されたとしても、法定地上権は成立しない
- 一番抵当権者の利益が害されるため
法定地上権の成否 (再築)
- 土地への抵当権設定当時に存在していた建物を再築した後、抵当権が実行されて土地建物の所有者が別となった場合は、法定地上権が成立する
- 土地と建物に共同抵当権が設定されていた場合、建物が再築された後に抵当権が実行されると、法定地上権は成立しない
- 建物の再築後に建物への抵当権を再度設定すれば、抵当権実行時に法定地上権が成立する
法定地上権の成否 (設定時期)
- 土地への抵当権設定当時に土地・建物が別人所有の場合、法定地上権は成立しない
- 土地建物の所有者が同一となった後に二番抵当権が設定された上で実行された場合
- 土地に抵当権が設定されていた、ならば、法定地上権は成立しない
- 一番抵当権者の利益が害されるため
- 建物に抵当権が設定されていた、ならば、法定地上権は成立する
- 一番抵当権者の利益となるため
- 土地に抵当権が設定されていた、ならば、法定地上権は成立しない
- 土地建物の所有者が同一となった後に二番抵当権が設定された上で実行された場合
法定地上権の成否 (共有)
- 建物の所有者がA,B共有で、A所有の土地に抵当権が設定されていた場合、抵当権が実行されれば法定地上権は成立する
- 抵当権とは関係ないBの利益を守るため
- 土地の所有者がA,B共有で、A所有の建物に抵当権が設定されていた場合、抵当権が実行されても法定地上権は成立しない
- 抵当権とは関係ないBの利益を守るため
一括競売
- 土地に抵当権を設定した後で建物が建てられた場合、抵当権者は土地と建物を一括して競売にかけることができる (民法389条1項)
- この場合、優先回収権は、土地の代価についてのみ行使できる (民法389条1項但書)
賃借権との関係
- 抵当不動産が賃貸されている場合、抵当権が実行されると、賃借人の賃借権は抵当権実行による買受人に対抗できない
- ただし、賃貸借を登記し、抵当権者全員の同意も登記されていた場合、賃借権を抵当権者に対抗できる (民法387条)
- 抵当権が実行され、賃借人が引渡しを請求された場合、賃借人は6ヶ月以内に引渡しをしなければならない (民法395条1項)
- 建物の使用の対価について、買受人が支払催告をしても相当の期間内に履行がない場合は、6ヶ月の猶予制度は適用されない (民法395条2項)
根抵当権
- 根抵当権とは、継続的取引から生じる不特定多数の債権を一括して担保するための仕組みである
- 根抵当権の担保上限額を、極度額と呼ぶ
- 元本債権を確定させる期日を、元本確定期日と呼ぶ
元本確定前
- 付従性がないため、被担保債権を弁済しても根抵当権は消滅しない
- 随伴性がないため、被担保債権を譲渡しても根抵当権は移転しない
- 非担保債権の範囲や債務者を変更することができ、変更にあたり、後順位抵当権者その他の第三者の承認を得ることは不要 (民法398条の4第1,2項)
- 極度額の変更には、利害関係を有するものの承諾が必要 (民法398条の5)
元本確定後
- 根抵当権設定者は、極度額を、債務の額と以降2年間の利息等を加えた額に減額することを請求できる (民法398条の21第1項)
質権
- 債権の担保として債務者からものを預かり、債権者のもとで留置することで債務の弁済を促し、債務弁済されないときは、そのものの代価から優先的に弁済を受けられる権利 (民法342条)
動産質
- 動産質とは、動産を目的とする質権であり、質権を対抗するためには占有している必要がある (民法352条)
- 動産質権者が質物の占有を奪われた場合、戦友回収の訴えによって死地物を回復することができる (民法353条)
- 質権に基づく返還請求はできない
不動産質
- 不動産質とは、不動産を目的とする質権であり、質権を対抗するためには登記している必要がある
- 不動産質権者は、質権設定者の承諾を得ずとも、目的不動産の使用収益をすることができる (民法356条)
- 質権者による賃貸も可能
- ただし債権の利息は請求できず、また、管理費用も質権者負担となる (民法357条 / 民法358条)
- 不動産7件には存続期間の定めがあり、その期間は最長10年 (民法360条1項)
- 更新可能 (民法360条2項)
権利質
- 権利質とは、債権などの財産権を目的として設定された質権である
- 対抗要件は、債務者に対する質権設定の通知または債務者の承諾
留置権
- 他人の物の占有者に、その物について生じた債権の弁済を受けるまでその物を留置することを認めた権利を留置権と呼ぶ (民法295条)
- 留置権は法律上当然に認められる、法定担保物件である
- 留置権は以下要件を満たすことで認められる
- その物に関して生じた債権を有すること
- 他人の物を占有していること
- 債権が弁済期にあること
- 占有が不法行為によって始まったものではないこと
- 留置権の行使だけでは債権の消滅時効の進行を止めることはできない
判例
- 賃貸借契約において契約終了後、貸主からの明け渡し請求に対し、敷金の返還を被担保債権とする留置権は成立しない
- 敷金は建物を開け渡した後に清算して支払われるもののため
- 不動産の二重譲渡において、第二譲受人が先に登記を済ませた場合、第一譲受人の、譲渡人に対する損害賠償請求権を被担保債権とする留置権は成立しない
- 他人物売買契約により不動産の引き渡しを受けたが、真の所有者から明渡請求があった場合に、買主の売主に対する損害賠償請求権を被担保債権とする留置権は成立しない
留置物の保管等
- 留置権者は、善管注意義務を持って、留置物を占有しなければならない (民法298条1項)
- 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、その物を使用、賃貸、担保に供することはできない (民法298条2項)
- その物の保存に必要な行為を除く
- 留置権者が上記規定に違反したときは、債務者は留置権の消滅を請求できる (民法298条3項)
留置権者による果実の収取
- 留置権者は、留置物から生ずる果実を、他の債権者に先立って、自己の債権の弁済に充当できる (民法297条1項)
留置権の対抗要件
- 動産・不動産に関わらず、留置権の対抗要件は、占有である
- 占有を継続していれば、留置権成立後に所有者が変わっても、新所有者に対して留置権を主張できる
先取特権
- 先取特権とは、債務者の財産から他の債権者に優先して弁済を受ける権利であり、一定の債権に認められる法定担保物権である (民法303条)
先取特権の種類と順位
- 動産先取特権、および、不動産先取特権は、一般先取特権よりも優先される
- 同種の先取特権が競合した場合、被担保債権の目的により、先取特権の順位が決定される
一般先取特権の場合
- 共益の費用
- 雇用関係
- 子の監護の費用
- 葬式の費用
- 日用品の供給 (民法329条1項)
動産先取特権の場合
- 不動産の賃貸、旅館宿泊、運輸
- 動産の保存
- 動産の売買、種苗または肥料の供給、農業の労務、工業の労務 (民法330条1項)
不動産先取特権の場合
- 不動産の保存
- 不動産の工事
- 不動産の売買 (民法331条1項)
物上代位
- 先取特権は、目的物の売却、賃貸、滅失または損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても行使できる (民法304条1項)
- ただし、先取特権者は債務者の手に渡る前に差し押さえをする必要がある (民法304条1項但書)
第三取得者との関係
- 先取特権は、その目的である動産を第三取得者に引き渡した後は、その動産については行使できない (民法333条)
- 登記がなく、第三者に先取特権を公示できないことから、制約が強くなる
- 先取特権は、その目的である不動産を第三取得者に引き渡した後であっても、先取特権の登記が事前にされていれば、第三取得者に対して行使できる
抵当権との関係
- 不動産先取特権と抵当権が競合した場合、本来、優先回収の順番は登記の先後によって決まる (民法177条)
- ただし、登記済みの保存と工事のための不動産先取特権は、抵当権に先立って行使できる (民法339条)
- 売買のための不動産先取特権は、抵当権に先立った行使は認められない
譲渡担保
- 譲渡担保とは、債務者の資産を債権者に売却し、資産の所有権を債権者に移した上で、占有改定を行うことで、実質的に債務者は債権者からお金を借りることができる
集合動産譲渡担保
- 構成部分が変動する集合動産についても、その種類、場所、量的範囲が指定され、目的物の範囲が特定されている場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができる
- 集合動産譲渡担保設定者は、通常の営業の範囲内で、担保目的物を処分する権限を有する
- 集合動産譲渡担保権者が担保目的物について対抗要件を備えた場合、構成部分が変動したときでも集合物全体に譲渡担保権が及ぶ
Ref
2026/03/02
- TAC 行政書士の教科書 第2編 Ch.2 Section.7